コラム
Vol.54 ベトナム進出を人的側面から成功させるために
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2014/07/02
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- ベトナム進出を人的側面から成功させるために
ベトナム進出を人的側面から成功させるために
「アジア進出中小企業のための人事施策運用ハンドブック(仮称)」の執筆に向けた情報収集のために、今回はベトナムに出張してきました。ベトナム訪問で、人材のマネジメントに関して新しい知見も広がり、とても有意義な旅になりました。今後の成長力もありますし、食べ物も美味しいですし、国民性も他国と比較して素直で真面目なので、海外進出を検討する際はベトナムも検討するに値する国だと思います。
今回も、6社ほどの中小・中堅企業~上場企業までお話を聞けましたので、人事・組織的観点でまとめたものをお送りします。文章としては大量になりますが、ご興味ある方はご一読ください(インタビューしたものを軽くまとめた程度なので、参考にする・しないは読者様のご判断にお任せします)。
皆さん、今後の日本企業の進出のためにということで、快く色々なことをお話下さいました。人物的にも素晴らしい方々にお目にかかることができました。
1.進出に成功する秘訣(総論)
今回も、大企業と中小企業に分けて解説していきます。進出後の人材マネジメント方法が大きく異なるからです。国民性として、素直であり、真面目ですが、まだ発展途上という点は否めません。誤解を恐れずに表現すると、経営者が小学生の親・先生というスタンスで、従業員の教育からスタートしないといけない状態です。そういった意味で、大企業は「仕組化」が大事、中小企業は「心のマネジメント」が大事というのが結論です。
大企業のマネジメントは「仕組化」をまず考えることが大切です。やって欲しいことを指標化して、その指標について目標を設定し、日々進捗管理して、結果に基づく評価+報酬の決定をするというシンプルな仕組み作りが大切だと感じました。阿吽の呼吸という概念は全く通じません。言って、聞かせて、メモを書かせて、メールを送って、という形で徐々に浸透していくことが大切です。全部指示をしてすると大変なので、「仕組化」することが大切な要素になります。
仕事の出来栄えを評価して、その結果良い人には報いて、悪い人は厳しい処遇(給与の上げ幅を少なくする)をするなどの方法は、ベトナム人にとっても受け入れやすいようです。ベトナム人は日系企業が好きです。大企業に務めることによって得られるプライド的な満足、安定性があること、また国内の景気の悪化もあって、日系企業への定着率は良くなってきているようです。
中小企業のマネジメントは「心のマネジメント」です。大企業のようにブランド力がありませんので、上記のメリットを訴求できません。ベトナム人の気質としては、「家族」という枠組みを大切にします。中国より「家族」の定義が広く、血族だけではなく、会社という組織でも「模擬家族」という絆で信頼関係を築くことができそうです。つまり、中小企業では社長が「お父さん」的な存在になればうまくいくようです。家族のように社員と接し、家族と同じように会社の成長を分かち合う家族的経営が大切ということです。
ここで大切なことは、家族経営をする以上、社長もオーナー一族の方がよいということです。2~3年ごとに社長が変わるのでは、家族経営はできないと思います。ただ家族的経営と言っても、ベースの仕組みがあって家族的経営が成り立つのであって、日本でやっているあいまい経営とは意味が異なると感じています。
2.ベトナム人の気質について
多くの人は、成長中で成熟はしていない状態だと思います。自己主張が強く、周囲に目を配ることは苦手なようです。ただ、ベースは素直なので、教育すると成長する可能性は高いと思います。
今回は、ベトナム人のWorkerさん5名ほどにお話を聞けました。会社に求めることは何ですか?と聞くと、
1位:給料のUP(手当類を含む)
2位:福利厚生の充実(結局は金銭がらみ)
3位:評価した人を報いて欲しい(これも金銭がらみ)
と結局は賃金に関する話が多いです。これは、最低賃金はどんどん上がってきているものの、物価の上昇率も高いため、仕方がないと思います。
また、年長者を大切にする風土があります。相手の年齢を考慮して、呼び方を変える習慣があるほどです。それと、意外と競争が好きです。工場地域対抗のサッカーや駅伝などはかなり盛り上がるらしいです。「仕組化」するなかで競争意識をうまく活用するのも手だと思います。
続いて、ベトナム人が働くモチベーションについて整理しました。
【ベトナム人のモチベーション1】収入・経済的豊かさの追求
上記に掲げましたが、賃金を上げたいという欲求が強いです。あるスタッフにこの会社に決めた理由は?と尋ねたら「給与が良かったから」と素直に答えていました(ちゃんと今は違うと言っていました)。ただ、それほど長期の残業は好みません。1日の残業時間は、2時間ならOK、4時間はNGという感じです。これは、まだ労働法上週48時間、年間の祝日は10日と少なく302日間稼働なので、少々休みが欲しいということでしょう。(労働法は2013年5月1日施行時点のものです)収入・経済的豊かさが1位なので、会社側として、1.会社の成長 2.本人のキャリアを見せることで、どんな将来があるか(将来はどう報酬が増えるか)を明示することも大切だと感じました。
【ベトナム人のモチベーション2】企業の安定性
日系企業のブランド力は高いと感じました。これは、業績に応じてレイオフしてこなかったことと、厳しいけれどもきっちり教育してもらえるという日系企業のスタンスをよく理解しているからです。(どこまで本気か分かりませんが)あるWorkerさんは「自分の子供もこの会社に入れたい」と言っていました(ちなみにお子さんは5歳!笑)。 Workerさんに会社を選んだ理由を聞いたところ、皆さん口をそろえて、この会社は安定している、将来性があるというという回答をしていました。韓国系・中国系企業より、福利厚生(昼食のレベルなど)がしっかりしてることも評価されています。ちなみに、対中デモは単なる政治的なものばかりではなく、中国系企業の待遇も悪さも影響しているとのことでした。
【ベトナム人のモチベーション3】働きやすさ
働きやすさとは、2つあります。組織風土・雰囲気が良いという「働きやすさ」。簡単な仕事・体の負荷が低いという「働きやすさ」。逆に仕事が少なくて、1日1~2時間で終わる仕事しかなかったので転職したというスタッフもいました。 組織風土作りにも気を遣う必要がありそうです。
3.現地スタッフの採用で気を付けること
基本的に、技術職・営業職・管理職などの人材は育っていないことを前提に考えたほうがよいと思います。つまり外部調達が難しいということです。もちろん、人事系や会計系のスタッフも紹介会社から調達できますが、頑張って会計スタッフも新卒から育成している会社もありました。そういった意味で、新卒採用が有効になると思います。
- 大学・専門学校に格(学力レベル)があり、それは現地スタッフしか分かりません。
- 入社2年間ぐらいは退職率は高いが、2年目以上は定着率が高まるようです(皆さん、なぜか2年と言います)。
- そういった意味で、真面目で素直で、2年間は会社に来るような人を採用することがポイントです。
- 中途採用のときに関しては、履歴書に家族のことは書いてあるが、仕事のことは書いていないので、面接で聞くしかない。
最後に、採用担当者にあまり権限を持たせないことが大切です。採用の最終決定は日本の経営者が行ってください。理由の1つ目は、家族の絆が固いので、採用を任せてしまうと自分の親族ばかり入れてしまうことです。結束が固まるメリットがありますが、実態として会社を乗っ取られたり、派閥が起きたり、デメリットの方が多そうです。理由の2つ目は、利権が発生するので、裏金が採用担当者に入る可能性があることです。どのようなことが起きるかはここでは書けませんが、日本ではあり得ないことが起きています。
この辺りは十分に気を付けてください。
4.退職について
景気の影響もあり、徐々に定着率は良くなってきているようです。色々工夫して定着率を上げてきている会社もありました。150名規模の企業で、(2年以上の勤続者で)過去2年間でやめた人は1名という会社もありました。退職に関しては、様々な意見があるので参考までに記します(内容については責任が持てません)。
- 3回目の契約更新をしてしまうと、解雇できない仕組みになっています。中国の労働法と同じです。比較的、試用期間中の契約未更新は可能なようです。
- 基本的な育成戦略としては、スタッフ職を辞めさせない、現場でリーダーを育成することがポイントです。今回訪問した企業のほとんどが、現場のリーダークラスは外部調達ではなく、内部から昇進させていました。
最近、ジョブホッピングが増えているという事前情報でしたが、それほど退職者が多いイメージはありませんでした。
5.福利厚生
現地スタッフを会社に定着させるためには、福利厚生の充実も大事です。
- 食堂が無料である(無料でおいしい料理を提供されること)。賃金事情と食事事情を考えると分かりますが、Workerさんの平均月収が1万5000円程度であり、屋台のフォーが125円ぐらいです。日本の月収25万円で考えると、フォーが2000円もすることになります。食費の占める割合が高いので、昼食無料は大きなメリットになります。
- リクリエーションが充実していること。これは、日本の昭和40年代を想像していただければ同じです。サッカーが好きな国民なので、会社でサッカーチームがあったりしますし、プライベートのリクリエーションが受実していないので、社内旅行などは本当に楽しみにしています。ハノイ近郊は海がないので、皆さん海に行きたがっているようです。業績が好調な会社は、ニャチャンなどのリゾートにも足を伸ばしているようです。
- 福利厚生ではないのですが、日本への1年間出張や、日本語教育に関してはどの会社も力を入れていました。基本的に日系企業がお客様なので、日本語を話せるスタッフ・技術者を育成しようとしています。これからは、ベトナムの内需に向けた営業の場合はもちろん英語にシフトしていくでしょう。
6.ベトナム(海外)展開するにあたり適任者の選抜は
- 皆さんおっしゃるのは、好き嫌いがなくて、体が丈夫なことです。やはり、体が資本ということでしょうか。
- コミュニケーション能力と皆さんが言います。言語能力ではなく、コミュニケーション能力です。現地の従業員の話をじっくり聴くことが求められます。
- 日本でも仕事ができる人を選抜することが大切です。日々のオペレーションが固まっておらず、日々問題が勃発するので、火消し型問題解決+改善型問題解決の両方ができることが最低必要です。やはり、問題に対して打ち手を考えて、実験して検証するということをきっちりやりながら、企業独自のノウハウを持っていました。その着眼は大変参考になりました。
- ベトナムの歴史を理解するとともに、自分なりの人間観・国家観があるとよいと感じました。このことによって、現地の稚拙な意見・行動も許せる範囲が広がるのではないかと感じました。
- 優秀な経営者は、人事ということが分かっています。人を動かすための評価・報酬の仕組みを理解して、自分で制度を作れる力がある人がほとんどです。海外赴任する前に、そういった知識を身に着ける経験が必要だと痛感しました。
- また、社風を作れる力も求められます。悪いことは、愛をもって「悪い」と言える意気込みが必要です。ある経営者は、レジで横入りするベトナム人を叱ると言っていました。なかなかできませんよね。
最後に
大企業において、進出先の企業をマネジメントしていくうえで、「引継ぎ」が大事だと思いました。現地のコンサルタントも同じことを言っていました。「引継ぎ」とは何かというと、簡単な事例で紹介します。
ベトナムで、以前勤めていた会社の旧友に会いました。なぜか二人ともネクタイをしているので、「なぜネクタイをしているの?」と尋ねると「前社長がネクタイ着用を義務づけたから」という回答でした。そして、「現社長はネクタイ着用とは言わないので、半分ぐらいネクタイをして、半分ぐらいしていない」という話でした。ネクタイを「方針」「品質強化」「職場のルール」などに置き換えるとどうなるでしょう。前の社長は「品質強化」と言ったけど、今の社長は言わないので、半分は品質を守り、半分は品質は守らないということになるわけです。
そういった意味で、「何を守り」「何を変えていくのか」をきっちり引継ぎしないと、現場が混乱(正確にいうと指示不感応)になります。大企業は、引継ぎ方法を視野に入れて、経営システムを構築してください。
ちなみに、6月30日にある企業の現役員と新役員の引継ぎミーティングを実施しました。「言葉の定義合わせ」「過去やってきたこと」「未来のビジョン合わせ」「変えること・変えないことの整理」をやって、役員の皆さんから大変好評でした。
最後に、インタビューにご協力いただいた皆様ありがとうございました。これらを参考にして、中小企業のアジア進出に役立つ本ができればと思います。
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