コラム
人事制度コラム
ジョブ型人事制度導入のリスクを考える:等級制度の理論・設計の実務・運用の実務について
コラム記事
2023/09/21
弊社は人事制度のコンサルティングからスタートした会社です。主に経営や組織戦略に基づいて、ジョブ型も設計したり、職能資格制度も設計したり、色々とお客様のご要望に基づいて人事制度の設計をしています。「ジョブ型人事制度を導入したい」というニーズは多いですが、その設計と運用には難しさが伴います。このコラムでは、ジョブ型とは何か、設計・運用上の難しさ、導入のポイントについてお伝えします。
※本記事は「2023/05/25開催セミナー│流行には惑わされない!?ジョブ型人事制度導入のリスクを考える」の内容をもとにしています。
ジョブ型の人事制度って大丈夫?
以前、タイで工場設立に参加した時期がありました。その際、工場の労働者採用は、文字通りプラプラと歩いてきて、看板を見て働かせてくれ、と来た人を採用するというイメージで行われていました。一方、ISOのマネージャーや同様のポジションの採用には、代理店を介して慎重に選考が進められていました。職務別の採用プロセスを目の当たりにし、新卒者がどのようにして最初の社会人経験をスタートするのかという疑問が湧きました。私が尋ねたところ、大学で専門分野を学び、基本的な職務スキルを持った状態で卒業することが前提とされていると説明されました。
ジョブ型組織を導入することは、実際には大学教育の仕組みを変える必要性も考えられるほど、大規模な変革を意味することかもしれません。ジョブ型を導入する際に、下記を問いかけてみてください。
- 採用方針が新卒を育てるのではなく、職務ごとに中途採用するように変わりますがよいでしょうか?
- 終身雇用ではなく、退職が増えても、必要なポジションを採用するという雇用方針に変わりますがよいでしょうか?
- 人ではなく、職務を評価するので、今までのような調整評価はなくなりますがよいでしょうか?
- 職務で評価するので、定期昇給もなくなりますがよいでしょうか?
- 職務で給料が決まるので、本人の合意のない職務転換はないので、ジョブローテーションはできなくなりますがよいでしょうか?
- 組織がなくなった場合は、異動(給与ダウンの可能もあり)や解雇になりますがよいでしょうか?
- 職務価値の算定に、毎年多くの時間が割かれますが、人事部門はそこに力を注いでもよいでしょうか?
- 長期的には会社に対する忠誠心も低くなる傾向があります。スキル中心の人材育成方針に変えることに抵抗はありませんか?
上記のような質問を経営者に投げかけた時に、「それをどうにかするのが人事の仕事だろう」と返答されると、人事の皆さんは困ってしまいます。結局中途半端な人事制度になりそうです。
経営者が流行に左右されて、ジョブ型人事制度を導入しようとするケースもありますが、その制度について深く理解されているとは思えません。そこで、皆さんに制度を理解するための情報を提供し、経営者に対しても説明できるような支援ができたらと考えています。
弊社は普段から人事制度の構築に関わっており、ジョブ型への相談も受けています。しかし、導入に際しては、必ずリスクからお伝えしています。「できない理由ばかり並べるな」と言われることもありますが、私たちはただ事実を伝えているのです。このコラムでは、ジョブ型に対する否定的な側面に焦点を当てることがありますが、それは「やめましょう」という意図ではなく、メリット・デメリットを理解した上で、進めていくための参考材料としていただければと思います。
ジョブ型人事制度には、色々な人が色々な考えを持っています。自分の聞いた話とは違うな、ということがあれば、弊社としても参考になりますので、こちらからお知らせください。
人事制度の流行りの変遷
人事制度の流行も時代と共に変遷してきました。あくまでも弊社の見解ですが、現在はジョブ型人事制度が注目されています。
戦前は意外にも成果主義でした。しかし、1970年代に入ると、能力主義が台頭し、職能資格制度が発展していきました。興味深いことに、ジョブ型人事制度の導入について、政府と経団連が議論した歴史があるとの情報もあります。国際的には、ジョブ型を職務主義と呼ぶこともあり、その選択肢は評価されましたが、高度経済成長期の日本では、人手不足の解消が急務であり、同じ能力レベルの従業員が多様な仕事をこなす能力主義が優先されました。こうして業務遂行能力に基づく給与体系が確立し、年功序列制度が広まりました。
1990年代には成果主義です。これは能力主義の変形版のような形で導入されました。バブル崩壊の時に、今まで上がる一方だった給与を、業績も悪いし人件費も下げなくちゃいけない、と減らすことを目的にしたネガティブな要素が含まれていました。
その後、2000年代にはコンピテンシーが導入されます。コンピテンシーとは本来ハイパフォーマーの行動特性を抽出するものです。これはアメリカで日本の能力評価を見て研究されたものがまた逆輸入されて、結局能力評価と大して変わらないと受け止められました。ハイパフォーマーの特性を特定する難しさも浮かび上がりました。
その次が役割主義です。役割に応じて処分を決定するもので、職務と能力の中間の柔軟な制度として多くの企業に採用されました。現在もこれを改めて導入しましょう、という形が増えています。
さらに、2020年の同一労働同一賃金は記憶に新しいでしょう。働き方改革の一環として議論されましたが、中途半端で、職務主義やジョブ型のような話が始まるかと思いきや、非正規雇用と正規雇用の不合理な処遇格差解消といった政治問題に発展しました。人件費が確実に増えるという点で、結構皆さん戦々恐々だったようです。ただ、2020年秋に最高裁で企業寄りの判決が出たこと、その後コロナが始まったことで、雇用維持優先の形で下火になったという流れがあります。
そして、ジョブ型です。ジョブ型とは職務価値に応じて処遇を決定する、給与は人の能力ではなく就任している職務の価値によって決定するというものです。古い日本の雇用人事慣行を打破するものとして注目されましたが、再度流れを見ていくと、流行り廃りがあります。かなり昔からある仕組みなので、目新しいものではないということを押さえておきたいと思います。最初にジョブ型が議論された時に、当時は人手不足のために職能資格制度が優先された経緯がありますが、これから明らかに人手不足になりますので、「このご時世にジョブ型を入れるのはいかがなものかな」という疑問はあります。ただ人手不足の話題は後述しますが、政府が違うことを考えているようなところがあるとは思います。
なぜジョブ型が注目されているのか?
政府もジョブ型を推進している
経営者もジョブ型推しだと思いますが、「なにせ政府も言っているから」というようなところがあります。首相が国会の所信表明演説で、「年功制の職能給から、日本に合った職務給へ移行など、指針を6月までに取りまとめます」と述べたことを考えると、本当に政府がこの概念を理解しているのか、そして日本に適した職務給とは具体的に何を指すのかが気になります。海外との競争力を維持するためにジョブ型にする必要があると主張しながらも、日本に適しているは何かという点において矛盾が生じていると言えます。
2023年5月16日の第18回新しい資本主義実現会議において、「三位一体の労働市場改革の指針」が公表されました。
ジョブ型にも触れられており、内容を見ていくと、まず、以下の問題提起があります。
「職務(ジョブ)やこれに要求されるスキルの基準も不明瞭なため、評価・賃金の客観性と透明性が十分確保されておらず、個人がどう頑張ったら報われるかが分かりにくいため、エンゲージメントが低いことに加え、転職しにくく、転職したとしても給料アップにつながりにくかった。」
ただし、該当する職務についているかどうかで処遇が決まるので、ジョブ型にしてもエンゲージメントが高まるかどうかは、色々な議論をしても疑問です。職務によってそもそも処遇が決まっていて、「私はこの職務をやるのか」となり、会社に対してどう思うかに関しては、「別に、特に(何も思わない)」という話になってきます。
また、今後勃発する可能性が高いのは、市場価値が低い職務の場合、転職することで給与が下がる可能性もある点です。先ほどから価値という概念に焦点を当ててお話ししていますが、価値とは後に出てくる「ジョブサイズ」や、市場の中で給与が高いか低いかなど、そういうものだと思ってください。ここではあえて価値というところを強調したいと考えています。
次に、職務給の個々の企業の実態に合った導入についてです。これは日本企業と外国企業の間に存在する賃金格差を、国ごとの経済事情を考慮しつつ縮小することを目指すものです。グローバルに合わせるのか、それとも個々の企業が独自に決定するのか、はっきりとした方針が明確でないという議論が存在します。
問題はこちらです。ここが厄介なのは、「年内にジョブ型のモデルを作成します」という点です。パフォーマンス改善計画(PIP)は、日本の場合、即座に解雇できないため、パフォーマンスが低い従業員に対して「改善計画書を作成するように」と指示し、上司または人事が指導しながら達成度を見ていくものです。これは外資系企業ではリストラの一歩手前ぐらいに使われるものと思っていただければいいでしょう。今回ここはよく踏み込んだなと思いました。
「賃金制度、労働条件変更と現行法制・判例との関係、休暇制度などについて、事例を整理し、個々の企業が制度の導入を行うために参考となるよう、多様なモデルを示す」とあります。ただし、「モデル」という言葉は皆さんがお気づきかもしれませんが、『同一労働・同一賃金』の時にもガイドラインが作成され、よく分からないものが出てきましたが、ああいったものにならなければいいなと思います。先ほど申し上げたPIPに触れているという点では、一定の評価は可能かと思います。
ジョブ型は日本経済の活性化につながる?
ジョブ型については新聞などのメディアで様々なことが書かれており、おそらく経営者の方々も注意を払っていると思います。例えば、「ジョブ型雇用が定着すれば働き手もスキル向上が必要になる」とありますが、現実にはスキルが低い職業も多く存在し、職務の価値が高いか低いかは一概には言えません。国内外で見られる一般的なパターンとして、スキルが低いとされる職種は低い位置に配置されることがあり、それが必ずしもスキル向上に繋がるとは限りません。しかし、上位の職務へのステップアップに向けてスキル向上に励むというのはよくあるパターンです。
さらに、「日本の給与水準が国際的に低いのは労働市場の流動性が低い」という指摘は、何度も耳にする通りですが、ここを押さえないとジョブ型を運用することは難しいでしょう。価値が低い職場は必ず存在します。
差がつかなかったら一緒と言われるので、ジョブ型にする必要がありません。政府の資料や実際の事例においても、IT関連職種が多く取り上げられていることは事実です。だからあまり参考になりませんという話ですが、ITは市場も給与が高まっていますので分かりやすいですが、では他の職務はどうするのか、職種はどうするのか、というような話だと思ってください。
ジョブ型人事制度とは
ジョブ型とは何か?
メンバーシップ型とジョブ型を対比しながら説明します。メンバーシップ型が新卒一括採用に対して、ジョブ型は即戦力採用、終身雇用に対して雇用流動化、企業内組合に対して産業別組合。産業別組合について補足すると、例えばフランス等では、会社別の組合ではなく、清掃員の組合や運転手の組合など、産業別に組織されています。これは給与の決定に関して、大きな違いがあります。企業内で差をつけるか、社会で給与や条件を決定するかというアプローチの違いと思っていただければよいでしょう。
メンバーシップ型は、評価は職務遂行能力に、処遇は勤続年数に基づき決まります。また、業務範囲が広く、会社の命による職種転換があり、解雇は難しいとされています。一方、ジョブ型では評価は職務に求められる成果に、処遇は職務の価値に基づき決まります。また、本人の合意のない職務転換はなく、職務の消滅による解雇が容易です。
解雇については、メンバーシップ型は解雇が難しいことに対し、ジョブ型が従事する職務の消滅や解雇が容易とありますが、これは海外の話だと思ってください。
退職金に関して、メンバーシップ型は、新卒から入ってずっと終身雇用で退職まで勤める場合は、給与の後払いのような形で最後にまとめて1000万ないし3000万支払うというのが特徴です。一方、ジョブ型の場合、雇用はジョブごとに流動的であり、退職金の必要性は低いとされています。アメリカなどで数億円の退職金を受け取るのは主に経営者であり、一般労働者の場合は支給額が少ない傾向にあります。
ジョブ型の基本
給与はその職務に従事しているかどうかで決まる。人の能力は関係ないのが前提。
ここまでの話で、おそらく職務と能力の話がごっちゃになっていると思います。スキルや能力を考えた時に、スキルの高い人だけが職務価値の高い職務に就くのか、スキルを高めれば職務価値の高い職務に就くことができるのか、スキルが低い場合はどうするのという話がよく分からない、となってきます。 しかし、ジョブ型雇用を理解する上で最も重要なのは、「能力はまず無視してください」ということです。
「能力はまず無視する」ということは、「職務価値が高い職務に就いていれば、能力が高いAさんだろうが低いBさんだろうが、同じ給与」ということです。同様に「職務価値の低い職務に就いていれば、能力の高いAさんだろうが給与は低い」と思ってください。この点が前提となります。ここが混同されることから、しばしば議論が錯綜しますが、あくまでも従事している職務に応じて給与が変わるということです。
職務への配置または人の入れ替え(解雇含む)の是正が重要
給与は従事している職務で決まること、能力は関係ないことが前提となると、何をしなくてはいけないかというと、人の入れ替えが必要となります。ここがとても重要です。例えばアメリカでは、能力・スキルが低い場合の解雇はOKですので、解雇して新たな人材が配置されます。AさんとBさんが入れ替わることもあれば、外部からCさんが来ることもあります。国によりますが、例えばヨーロッパ系の国々では、解雇は難しいものの、試用期間中に「この人向かないね、さようなら」という判断が許可されることがあります。しかし、日本の場合はそうはいかないので、ここに矛盾が出てくるはずです。
ただし、解雇できない場合、何をするかというと、AさんとBさんを入れ替える作業が必要になります。ジョブ型に積極的な大企業では、おそらくこれを実施したいと思っている企業が多いのではないでしょうか。ちょっと労務トラブルを抱えてでも実施する意思のある会社はあるとは思います。一方で、中小企業でこれが実現可能かどうかは疑問です。また、よくある解決策として、なあなあにしてAさんもBさんも置くとなると、ジョブ型でも何でもないということを押さえておいてください。
ジョブ型の運用の難しさと運用のポイント
一般論では能力の高い人が職務価値の高い職務に従事していると思われているが、必ずしもそうではない。人の入れ替えが必要となるが、理屈通りには運用できない可能性が高い。
ジョブ型の運用の難しさについて、一般的には、政府の資料や日経新聞などでも述べられているように、職務価値の高い職務に従事している人は能力が高いと思われています。しかし、実際にはそうではないと身にしみていると思います。理屈通りに運用できない可能性があるのです。
ジョブ型は降格しやすいかというとそうでもありません。その点はおそらく「現行法制・判例との関係」(三位一体の労働市場改革の指針の中で触れられている)など、政府も整理が必要な領域であると認識しているでしょう。
では、解雇が許されるかというとそうでもなく、「能力が足りなくて解雇」は通常認められませんし、整理解雇も難しいところです。職務そのものがなくなったという理由で解雇することも、たまに某外資系がやっていますが、よく裁判になっています。解雇要件は人事制度とは別のロジックなのです。職務がなくなったことは、一つの根拠になるかもしれませんが、雇用維持が求められます。この際、「この職務で雇った人の雇用維持とは何なのか?」のような議論が出てくるでしょう。
「外部公平性」と「内部公平性」が存在する。ただし、必ずしもこの両者が一致するわけではない。
外部公平性と内部公平性というものが人事では存在します。採用市場によって、ある職種や職務の需要が高く、給与水準が高いとされることがあっても、企業内部ではその職種や職務が同じほど重要ではないという場面も存在します。IT関連の職種は市場で高い給与が支払われているが、その職種が企業内であまり必要ではない場合などが該当します。IT関連の職種が高いからといって、給与を高くするとなると内部でごちゃつくところがある、というふうに思ってください。ここの整理をしっかりしなくてはいけません。産業別組合があれば、外部公平性だけを考慮すれば済みますが、日本の場合は往々にして内部公平性も考慮されることがあります。
そもそも職務の価値に明確な違いの証明がしにくい。
さらに、実際にジョブディスクリプションを作成する際に直面するのは、職務価値の明確な違いを表現しにくいという課題です。詳細に記述すればするほど、職務価値の差異が曖昧になることがあり、読み手も理解しにくくなることがあります。
職務価値の測り方 ここで、職務価値の測定方法について説明します。測定方法はいくつかありますが、基本的なものは、市場価値法、序列法、得点法です。市場価値法は、外部公平性を確保するために用いられ、市場で価値が決まっている職務はそれに合わせる形です。序列法は内部公平性を考慮し、職務を価値の高そうな順に並べて、相対的に処遇を決定する方法です。 得点法はやや複雑です、外部および内部の公平性を担保するために使用されます。知識、経験、問題解決能力、達成責任などの複数要素から職務の難易度や重要性を図ります。項目を得点化し、合計点を出してそれを高い順に並べていく形です。これをよくジョブサイズ(=職務の大きさ)とも呼んでいます。 職務価値とジョブサイズでは意味はあまり変わりませんが、ジョブサイズというと、こうした得点化したものというイメージが強いです。例えば、部下の数、管理する部署の数、収益率などの定量的な項目の他に、戦略的重要度や難易度のような定性的な項目、コミュニケーションの難易度も測ったりもします。これらの得点を合計してランクや順番を決めていきますが、その適切さと精度については、実際のところやっているこちらも「本当にこれでいいのかな?」と思う時もあります。 |
ジョブ型とメンバーシップ型の違い
ここで改めて、メンバーシップ型と比べながら、ジョブ型の大事な点について説明します。
採用権限
採用権限は、おそらく人事から各職場の管理者の方にシフトしていくはずです。各職場の責任者が「この職務には何人必要だ」のような話をすることが必要になってくるでしょう。
離職率
離職率を下げるためにジョブ型を導入する、というようなことを言う会社がありますが、おそらく離職率は高まります。各社にジョブ型が導入されると、社員が「同じ職務だったら、もっといい給与のところに行こう」と考えるのは普通のことになります。外資系では皆さん頻繁に転職しているというイメージ通りだと思っていただければいいでしょう。
配置
未経験者を育てる傾向は減少する可能性があります。その職務ができる人、即戦力を採用する方向に向かうということです。
組合
組合交渉は今後難しくなるかもしれません。あまりにも突出した給与の職務が出てくると、その職務に対しての整合性の調整が議論になるかと思います。
社会的背景
あまり強調すると語弊を招きますが、社会的背景も意外と大事だなと思っています。日本人は単一民族ではないと言われていますが、みんな同じ、という感覚で生きてきました。身分も江戸時代以降は無くなりましたが、ジョブ型を導入している国の多くは貴族制や階層別社会で、差異に慣れていることが多いです。差異は個人のせいではなく、例えば職務の違いなどを論拠にすることがあります。元々、ジョブ型自体も最初からジョブ型ではありません。公民権運動がアメリカで起こり、人で判断すると人種差別として非難された経緯があります。そこから、人の能力ではなく、その人がついている仕事に応じてお金を支払おうということが言われているほどです。社会において「この差が当然」という考え方と、「差とは何なのか」という考え方の違いがあると思ってください。「差は当然だよね」という形でジョブ型は進めていかないと、せっかく導入したとしても破綻するということです。
教育訓練
意外と大きな違いが、教育訓練です。基本的には企業の中で教育するという考え方から、外部での学習が重要視される傾向に変化してくると考えています。海外では、仕事が終わった後にスクールへ通うこともありますし、ワーカーがマネージャーになるために一度退職して大学に通ってからマネージャーになるというような形で、学校や教育のあり方が変わっていくことが必要かと思います。
ジョブ型議論で忘れられがちなこと
ここまでの話と重複する部分もありますが、ジョブ型を検討する際に、考慮すべき点を以下にまとめました。自社で検討される際に、ご参考いただければと思います。
みな平等・公平の意識が強い日本人に職務「価値」や階層という考え方やあり方が受け入れられるか
日本人的に「差って、大丈夫?」という話です。欧州は貴族制社会で階層別に慣れています。「差をつける」ことが前提で成り立っていますので、会社として受け入れられるか振り返ってみてください。
職務が消滅したときの整理解雇要件をセットに議論しないと運用不可能
職務が消滅した時どうするかというのは必ず検討しましょう。後で労務問題も増えてくると思います。
給与が毎年上がっていくのが当然という意識を捨て去れるか(職務が変わらないと基本は給与が上がらないという構造を理解しているのか)
給与が毎年上がっていくのが当然という意識を捨て去れますか。職務が変わらないと昇格しないので、給与は大幅には変わらないと思います。
産業別組合という存在をすっかり忘れているのでは
企業別組合が他の企業との横並びを認められるでしょうか。組合はちょっとやりにくくなるでしょう。
エグゼクティブと一般労働者の話を混同してないか
いわゆるエグゼクティブと一般労働者の話をごちゃ混ぜにしている可能性があります。たとえばアメリカの一般労働者は出勤率だけを評価基準とし、その他の評価が行われないことがあります。職務価値が低く、単に目の前の仕事に取り組むだけで十分とされる人に対して、本当に目標設定を求めるべきなのか疑問が生じます。一方で、エグゼクティブは上司の指示に絶対服従しなければならない場合もあり、ホームパーティーに呼ばれると行かなくてはいけない、という話もあるようです。
ジョブディスクリプションで明確に職務の範囲や職務価値の違いを実態に合わせて表現できるか。
「良いジョブディスクリプションができたね」と言っても、例えば外資系などのコンサルに依頼すると2000万円ほどかかります。そのジョブディスクリプションが実態にあっているのか、という疑問が出てくる可能性があります。
ジョブディスクリプションに載っていない業務は誰がやるか
ここは大事です。ジョブディスクリプションに載っていない業務は誰が担当するのでしょうか。これまでは、気の利いた人が「私がやります」と言えば、その結果として評価が上がることもあったでしょう。しかし、ジョブ型では、それはなしということになります。明記されていない業務については、それは重要ではないので放っておくという選択もありだと思います。
ジョブ型を報道しているメディアは日本型の処遇の会社が多い
ジョブ型について報道しているメディアは、一般的には日本型の処遇を実施している企業が多い傾向があります。メディアの情報を参考にすることも有益ですが、鵜呑みにするのは注意が必要です。メディアは日本型の処遇が多く、年功序列です。妄想的な情報も含まれている可能性が高いと考えられます。
外部環境変化の激しい業種や中高年には厳しい制度
ジョブ型は外部環境変化の激しい業種や中高年の社員にとって厳しい制度です。しかし、「その職務ができないね」という社員に対し降格といった措置を取ることが目的である場合には、むしろ合理的な制度だということです。そのため、「うちの会社は長年培われた技術が必要です」という会社は、ジョブ型の導入はやめておいた方がよいでしょう。
まずは推進する側の役所から実践してみてほしい
まずは役所から実践してみてほしいなと。常々思いますが「本当に厚労省できるのかな?」という疑問があります。
ジョブ型への移行は難易度が高い
コンサルのネタになるので、「ジョブ型は全て問題ないですよ」と言うようなコンサルにはちょっと注意してください。実際には、ジョブ型への移行には高度なロジック整理が必要であり、難易度が高い場合が多いため、慎重なアプローチが必要です。今まで高いポジションにいた人が、新しい制度では低いポジションに移行する可能性もあるため、根気強く取り組む姿勢が求められます。
ジョブ型が向いている企業と向いていない企業
ジョブ型が向いている企業
- グローバル展開している企業(海外と処遇を合わせやすい)
- 中途採用者で構成されている企業(即戦力を採用しやすい)
- 市場価値の高い人材をとにかく集めなければならない企業
- 職種間・部門間異動はなく、かつ役割が固定化する企業
グローバル企業の場合は、海外との処遇の違いが確かに課題になると思います。よくあるのが日本の50代の課長と海外の30代課長とで処遇はどうするのか?そういったところはジョブ設定する必要がありますので、同じ課長でも価値の高い課長・価値の低い課長、というように年齢は関係なく整理をしてください。
中途採用者で構成されている企業にも、ジョブ型は適しています。実際、ジョブ型は中途採用に適したアプローチです。ただし、中途採用者の中には、ジョブ型にしようと何にしようと、飽きたらすぐ辞めるような人もいます。
市場価値の高い人材をとにかく集めなくては、という企業にも向くでしょう。また、職種間や部門間の異動がない企業は、ジョブ型が適していると言えるでしょう。たとえば、営業や経理、人事など細分化された職種が存在し、それぞれがずっと同じ業務を担当している企業、ローテーションしたくてもできない企業です。
ジョブ型導入は慎重な検討が必要な企業
- 新卒採用中心の企業(仕事の適性はやってみないと分からない)
- 長期勤続をしてほしい企業(同じ仕事なら高い給与の企業に転職)
- ローテーションを活発にしたい企業(必ず矛盾が出る)
- 政府が言うから、流行りだからと役員が導入を指示する企業
- あいまいさ・調和により成長してきた企業(必ずしも悪いわけではない)
ジョブ型導入に慎重になった方がよいのは、新卒採用中心の企業です。新入社員が「私はこれに向いています」と言って配置しても、実際には異なる職種やポジションの方が向いているケースはよくありますので、仕事の適性はやってみないと分からないところがあります。スキルを学んだからと言って、実務でそれを活かせるかどうかは分からないことが多いです。スキル習得後、実務ができるかわからない中で、できなかった場合、海外では転職という選択肢を取ります。向いていないのに留まり続ける人もいますが、実務経験を積むことは重要だと思います。
長期勤続してほしい企業、ローテーションを積極的に行いたい企業にもジョブ型は向きません。同じ職務価値のポジションへの異動は、受け入れられるかもしれませんが、勉強と受け止めて少し下のポジションに移ることは、受け入れ難いでしょう。雇用契約を職務ごとに結び、ローテーションを実施できない状況に陥る可能性が高まり、矛盾が生じやすくなります。
また、流行りだからといって導入すると失敗します。理解しないまま導入し、「どうしてこの運用になっているのか?」と言われたり、「あの人がなぜ昇格しないのか?」「その職務から変わっていないからです」というやり取りが繰り広げられたり、後から問題が発生することになるかもしれません。
意外とあるのが、曖昧さ・調和により成長してきた企業です。それを変えたいという理由でジョブ型を導入するのは構いませんが、それを変えたくないけれども、政府が言うから導入するというのは、やめた方がいいということです。この曖昧さ・調和も意外と悪くなく、成長している企業は多く存在します。
すでにジョブ型の要素がある企業
- 製造業/建設業(作業従事者はずっと作業従事者の会社も多い)
- 非正規社員(職種・職務で採用)
- IT関連(一般よりも市場価値が高く、人手も不足しているため争奪戦)
- 中小企業(営業で雇った人材をわざわざ経理にローテーションしたりしない)
実は、すでにジョブ型の可能性がある企業は、建設業や製造業です。建設作業に従事する方の中には、「給与がほとんど上がらない」と言って、市場を転々としている方もいます。同様の傾向は製造業でも見られます。また、非正規社員については、すでにジョブ型です。給与が必ず伸びるわけでもありませんし、仕事の種類によって給与は違うという形です。
IT関連企業や中小企業も、実はジョブ型の企業が多いです。特に中小企業では、従業員が一つの職種に留まることが一般的で、例えば経理部門では経理の仕事をずっと続けることが多いです。また、経理部門の課長など、ポジションによって外部から人材を採用していることもあります。中小企業でジョブ型導入を無理やり推し進めると言っても、すでに実態がジョブ型なのだから、推し進める必要があるか疑問だという会社もあると思います。
ジョブ型の参考情報
ジョブ型の給与設定と昇給
ジョブ型の給与設定方式はシングルレートかナローバンドといって、給与の幅が狭いのが基本形ですが、すでに導入した企業では、意外とこれをやめて給与の幅が広い、ブロードバンド型にしている会社も多いです。海外もブロードバンド型です。ナローバンドにすると、給与が本当に上がらない、やはり運用しにくいとなって辞めるということがありますので、多少広げて、その中を給料が上がったり下がったりする、というところが一般的には多いです。ただ、あまり広げすぎると何が出てくるかというと、今と変わらないという意見です。ブロードバンド型にすればするほど、当初排除しようと思っていた年功的な・能力的な運用はまた戻ってきますので、ほどほどに、という話は出てくるとは思います。
ジョブ型と失業率
「そうは言っても、ジョブ型にすればすべてOK」と言う方がいらっしゃいますが、そもそも日本は失業率が低いというところも考慮しましょう。
ジョブ型導入率
ジョブ型の導入率ということで、パーソルさんの「ジョブ型人事制度に関する企業実態調査」を読んでいただくとかなり参考になると思います。ジョブ型の導入予定・導入済企業割合が50%以上となっていますが、実際そんなことはないと思います。本気のジョブ型のところはそこまでまだない状態でしょう。「なんとなく課長の方が給与高いからジョブ型かな」のような回答をしている会社も多いかと思います。
ジョブ型の導入目的
ジョブ型の導入目的は、「貢献度に応じた適正な処遇」「職務内容の明確化」が多くなっています。「貢献度に応じた適正な処遇をするのなら、きちんと人の入れ替えはしてください」ということです。
ジョブ型の課題
ジョブ型人事制度の課題としては、「経営陣と現場責任者の理解が不足している」「人事内に運用に充てられる十分な人材がいない」「人事内にジョブ型制度に関する知見の集積がない」などがあげられています。
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もっと詳しく知りたい方、お悩み相談を希望の方へ
この記事を読んで、ジョブ型導入を検討する際のヒントになればうれしく思います。記事にするにあたり、セミナーの内容や資料を一部省略した部分がありますが、もっと詳しく知りたい方、個別のお悩みを相談したい方は、下記からお問い合わせください。1時間のオンライン無料相談も承っています。
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