コラム

新入社員の心の成長を促進する研修

2021/08/23

執筆者:島森

新入社員クラスの「心の成長」を支援するために、成人発達理論を研修にどう応用するか、探求をしてきました。トライアルにご協力いただいた企業様にて実際に新入社員研修を実施し、知見やノウハウが溜まってきましたので、現時点での結果を報告します。

成人発達理論を学ぶにつれて、私自身、
・発達促進を必ずしも是としない(発達は自然に起こるなもの)
・発達の測定は難しい(発達の境はあいまいで、発達の種類も多岐にわたるため)
・そもそも、研修による発達促進は無理
といった理解が深まってきました。

しかし、心の成長には「内省力」が大きく影響しそうであり、優秀な経営者やマネジャーは内省力が格段に違うことは否めません。

そこで、新入社員から「内省の習慣づけ」ができればと考えています。新入社員の段階で内省の習慣がつけば、コミュニケーションが上手になったり、後輩指導が上手になったり、お客様の要望に合わせた提案ができたり、様々な場面で上手に機会を取り込んで、自律的な成長が促進できると考えています。

ところが、内省力と一様に言っても、
・同じ出来事に遭遇しても、気づきの深さの違い・そこから何を学ぶかの違い
・同じ出来事に遭遇しても、自責化できるか他責化してしまうかの違い
・同じ機会に遭遇しても、それを受け取るか、回避するかの違い
・同じ失敗をしても、それを肯定的に受け止めるか?自己否定に走ってしまうかの違い
・自分の内面(感情・反応など)の認識と取り扱いできる力の違い
など、様々な表現ができそうです。

新入社員の「内省力」「内省スキル」を想定してみる

まずは、新入社員の内省力を、発達段階の観点から以下のように想定しました。

新入社員の内省力

  • 2人称視点が成熟しておらず、1人称視点が強く、自分を守りがち。
  • 自分に軸を向けることが苦手で、他責化しやすい。
  • 自分が感情に左右されて行動していることを、それほど認識していない。
  • 世の中が危険だと思っているので、自己開示が苦手である。
  • 自分の内面を開示することに慣れてない。
  • 茶化したり、強がったりして、自分の弱さに向き合うことが苦手である。

このように想定すると、新入社員クラスの成長に必要な内省スキルが明確になります。

新入社員に身につけてほしい内省スキル

  1. 自分の中にある葛藤や感情を取り扱うスキル
  2. 自分が考えていることを開示するスキル
  3. お互いの自己開示を通して、励まし合ったり、慰め合ったりするスキル
  4. 自律的成長の手法である経験学習モデルを回すスキル

「新入社員の心の成長の研修」とは?

新入社員に身につけてほしい内省スキルをふまえ、「新入社員の心の成長の研修」は、下記ねらいをもって、コンテンツを開発しました。

新入社員の心の成長:研修のねらい

  • 一生涯活用できる「心の取り扱い」の第一歩を学ぶ。
  • 自己開示力を高めるスキルを身につける。
  • 同期の絆を深め、相互支援体制の構築を図り、離脱者・離職者を減らす。
  • 自分の葛藤・感情の存在に気づき、それを客観視してから行動するスキルを身につける。
  • 経験学習モデルを活用して内省力をつける。
  • 相手の存在や相手が考えていることを想定して、行動を選択するスキルを身につける。
  • 自分の解釈に気づき、解釈を変えることで、モチベーションコントロールのスキルを身につける。

これらを入社してから1年間で習得する研修プログラムです。5つのコンテンツ(①自律的な成長方法を学ぶ ②職場に溶け込む ③行動のブレーキを外す ④相手軸で仕事を考える ⑤やる気の低下を防ぐ)から構成されます。

全体スケジュール

研修プログラムは、主に以下3点をポイントに設計しました。

  1. 経験学習の定着
  2. 葛藤の取り扱い
  3. 失敗しても凹まない方法

それぞれについて、詳しく説明します。

1.経験学習の定着

学生時代に探求学習を学んできた新入社員に、新たに「経験学習」を学んでもらいます。経験したことをどう知識として転換できるかという経験学習の定着を目指します。また、問題意識をもって研修してもらうために、質問を常に考えて受講してもらうように意識づけをします。

ただ、実際に経験学習を定着させるトライアルをして分かったことは、新入社員クラスでは、
・事実の話と、解釈や感情・感じたことの話がごっちゃになる
・過去の話と、将来の話がごっちゃになる
・経験を概念化することにハードルがある
・そもそも、自分の体験や内面を言葉にするのに、ものすごく時間がかかる
などの傾向がありました。

経験学習に関しては、まずは「覚えたこと」「気づき」「何を実践したいか」などの簡単な問いからスタートするのが良いでしょう。

2.葛藤の取り扱い

職場に配属されると、葛藤が増えてきます。
・質問や確認したいけど、先輩が忙しそうだから質問や確認をするかを迷う。
・職場に馴染みたいけど、上司や先輩に嫌われたら困るので声をかけるか悩む。
・有給休暇を取りたいけど、新入社員のくせにと言われそうで申請するか悩む。
・本当はこの仕事に着手したいけど、時間がかかりそうだら他の仕事からしようか悩む。

心の研修では、このような葛藤の乗り越え方を学びます。

例えば、初対面の人に声をかけるときは、「本当は職場でに馴染みたいので声掛けをしたいけど、嫌われたらイヤだ、相手にされなかったらイヤだ」という妄想が走り、葛藤ゾーンに入ります。この葛藤で、声をかけることを控えると、安全ゾーンに入ったように見えますが、実際には職場に馴染めなくなります。一方で、思い切って声をかけると、お互いの理解が深まり、職場に馴染める可能性が高まります。

研修では、葛藤を客観視してもらい、最適な行動を選択してもらいます。

3.失敗しても凹まない方法

積極的な行動を選択して「危険ゾーン」に入ると、成功体験もできれば、失敗体験も起こります。この時に、どうやって失敗の凹みを乗り越えさせるか、いろいろな方法を模索しました。

一番良いのは、研修担当者によるフォローアップですが、すべての新入社員のフォローアップは現実的ではないですし、マネジャーやOJTトレーナーに任せても、フォローアップのレベルがばらつきそうです。

考えた結果、同期でお互いに体験を共有して、励まし合うことにしました。そうすることで、同期の絆が深まり、お互いに励まし合う力も身につき、自然に自己開示力があがります。また、研修担当者もそれほど手間がかかりません。

研修後に、ワークシートを配り、それを定期的に共有してもらい、開示したものにお互いにコメント・アドバイスする仕組みにしました。
下記は、実際に研修で使っているワークシート(葛藤ゾーンの体験のシェア)です。

研修で使っているワークシート(葛藤ゾーンの体験のシェア)

「新入社員の心の成長の研修」の効果

「心の成長の研修」を受講した新入社員の声

自分の内面を見つめて、同期と内面をシェアすることで、「安心」「癒し」が起きているように思えます。自分だけではなかったということに安心し、お互いに励まし合うことで「癒し」が起きているようです。

研修という一過性のものではなく、職場の体験をシェアすることで、内省力の向上や経験学習の定着に寄与すると考えています。さらに、同期の絆が深まることで、一人ひとりのレジリエンス力が高まり、また支え合う力が増すので離脱者・退職者も軽減できると考えております。

私は今まで、仕事でミスをすると自己肯定感が下がってしまっていたが、研修を通して内省というのを学び、実践してみると心が軽くなり、以前と比べて自分を責めるようなことはなくなった。

葛藤する場面があっても、一度冷静に客観的に考えることで大切であることがわかった。

自分の状況を話したり、同期が悩んでいることを聞いて、自分の状況を今までより客観的に見ることが出来ました。悩んでいることは、一人で悩まずに周りに相談すると楽になると気づきました。

同期が自分自身と同じような悩みを抱えていること、学生から社会人への変化に適応することは最初は大変だとみんな感じることがわかった。

同期の絆が強い方が、支えになってくれると感じました。

「新入社員の心の成長の研修」は、このように、

  • 経験学習モデルを学ぶことで、自律的な成長を促すスキルを定着させる。
  • 葛藤を乗り越えるスキルを学ぶことで、行動にブレーキがかかりにくくなり、積極的に行動できるようになる。
  • 同期のコミュニケーションを深め、お互い励まし合い・尊重し合うことで、離職者を減らす。

など、1年間の研修を通して、新入社員の「心の取り扱い」を育み、成長を促すものです。

興味がある方は、資料をダウンロードしてご覧ください。

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