コラム
専門職認定審査シートの無料ダウンロード
スペシャリスト(専門職)コース設置の留意点と解決策
コラム記事
2021/06/01
等級制度の設計をすると、必ずスペシャリスト(専門職)コースの設置の検討をします。スペシャリストコースの設置は、メリット・デメリットがそれぞれあり、会社のビジネスモデルや社員のキャリア開発・処遇などを考慮して、最適解を検討していきます。
今回は、スペシャリストコース設置の留意点と解決策の一般論について解説します。
留意点
留意点1:スペシャリストコースには様々な目的が混在しがちである
留意点2:スペシャリストの評価が難しい
留意点3:スペシャリストは管理監督者か否かの判断が難しい
解決策
解決策1:スペシャリストコースはスペシャリストを処遇するコースに絞る
解決策2:スペシャリストコースの専門性を評価する方法
解決策3:スペシャリストコースは契約社員にする
留意点1:スペシャリストコースには様々な目的が混在しがちである
一般的にスペシャリストコースには、スペシャリスト・ライン不適格者・役職定年者・ラインプール人材が混在することがあります。それぞれの人材の定義や問題点などを整理しました。
ⅰ)スペシャリスト
この人がいれば会社の業績が上がる人・社外でも活躍できる人材。
その会社独自のビジネスモデルに付加価値をつけられる人材だと定義しています。つまり、マーケティングのプロ、商品開発のプロ、コアとなる技術を持っている人材、業界に人脈を持っている人材など、この人がいることで、売上が人件費の10倍以上向上できるような専門性を持っている人を指します。個人的な見解ですが、「その会社独自」という点が大切で、経理・人事・法務のスペシャリストは、スペシャリストコースで処遇すべきではないと考えています。もちろん、社内で弁護士・弁理士資格を保有した人をスペシャリストコースとして処遇するのは良いと思います。
ⅱ)ライン不適格者
マネジャーに向いていないので、ラインから外した人材。
部長や課長に登用したが、向いていないと判断した場合、マネジャーコースではないので、専門職・専任職としてスペシャリストコースに配置することがあります。
一般的に、このライン不適格者が、貢献以上に報酬をもらっていると問題視される傾向があります。そして、会社によってはここに多くの人材が滞留し、人件費を圧迫します。ある一定以上放置して問題が大きくなると、人事制度改革を進めながら、このグループの人たちの処遇を下げることになります。
どうして、このような問題が発生するかというと、経営側の「人材の見極め力のなさ」と「温情」「優しさ」からです。「一度、部長・課長にした人を、ラインから外して、さらに報酬も下げるのはかわいそうだから」という理由で、スペシャリストコースで処遇します。特段専門性があるわけではありませんが、可哀そうだからという理由で高処遇を施します。これは、単なる経営側・人事側の問題の先送りだと思います。
会社として、丁寧に複眼で長い年月をかけて管理職登用を考えるべきで(つまり管理職に登用しにくくする)、もし不適格だと思ったら、厳しいかもしれませんが降職・降格させるべきでしょう。逆に、宙ぶらりんなスペシャリストコースに配置することで、その方の将来性(転職して活躍の場を見つけるなど)を奪っているかもしれません。
ⅲ)役職定年者
役職定年でポストを外れた人材。
55歳など役職定年の時期が規定されており、その方を処遇するポストとしてスペシャリストコースが活用される場合があります。
役職定年問題もメリット・デメリットがありますが、70歳雇用延長を考えた場合、一般職→マネジャーとして活躍→いち個人として働くというフェーズを用意する必要があるでしょう。上司が役職定年をしないと、60歳で初めて管理職に登用される人が出てくるとも限りません。
これも個人的な見解ですが、営業職・生産職・スタッフ職とあるように、管理職も職種だと思っており、管理職の一人前になるまでには5年以上かかると思っています。35歳ぐらいで管理職には登用したとしても、真に活躍できるのは40歳ぐらいだと考えています。そういった意味でも、50歳を超えて部長にならない人、55歳を超えて役員にならない人は、早めに後進に道を譲ることも大切かと思います。後進が育ってないという理由で、ポジションを譲らない役員・部長クラスがいらっしゃいますが、まずは譲って後進育成に専念して欲しいと思っています。優秀な人ほど、去り際が美しいと考えています。
ⅳ)ラインプール人材
ラインに登用したいが、まだポストがない人・優秀ではあるが2番手の人材。
管理職の登用制度・昇格制度で、ポジションがないのに先に管理職の切符を手にする人がいます。これは、人事制度に縛られて、本質を見失っているような気がします。人事制度とは、貢献と処遇を連動させていく仕組みですが、能力が上がったから、評価ポイントが累積されたからの理由で、先に昇進・昇格させることに起因する問題だと考えています。
本質的には、ある部署の課長のポジションについて、現在の課長と新しい昇進候補者のどちらが活躍の可能性があるのか、どちらの専門性が高いのかで判断すればよいと思います。そこに、「温情」「優しさ」が加わるので、目が曇った判断をしがちになります。
この人たちは、管理監督者でもないので、残業代の支給対象にもなります。そういった意味でも、この人たちを処遇するコースとして、スペシャリストコースを活用するのは望ましくありません。
留意点2:スペシャリストの評価が難しい
スペシャリストの評価(その等級で良いのか?しっかり業績貢献をしているのか?など)について、評価の難しさの問題が必ず生じます。この問題に関しては、解決策も含めて解説します。
スペシャリストの評価は、役員・部長クラスになると思いますが、その専門性がないので評価できないという壁にぶち当たります。しかし、これはおかしいのではないでしょうか?そもそも、スペシャリストとして登用する以上、その専門性はビジネスに直結しないといけません。逆に、その専門性を使って、どのようにビジネスを育てていくのかが役員・部長の役割になると思います。
専門職の評価シートは、こちらからダウンロードできます。
留意点3:スペシャリストは管理監督者か否かの判断が難しい
まずは、労働法41条第2号で定められる管理監督者の定義は、「職務内容、責任と権限、勤務態度、待遇など、実態に即して判断し、経営者と一体的な立場にある者」とされています。
要件を下記に整理しますが、ⅲ)賃金等待遇の要件はクリアしそうですが、ⅰ)職務内容、責任と権限の要件 ⅱ)勤務態様の要件を満たすことは難しそうです。杓子定規に捉えると、スペシャリストコースは管理監督者とは言えないでしょう。労働基準監督署に問い合わせたことがあるのですが、会社の実情で判断するという回答で、グレーということなのでしょう。自社内で判断は難しいので、社労士・弁護士さんと相談する必要があるのでしょう。リスクを回避するためには、スペシャリストは管理監督者ではないと定義して、残業代を支給することが望ましい対応だと思います。
【管理監督者とは】
ⅰ)職務内容、責任と権限の要件
□採用、解雇の決定に関する重要な役割を果たしているか
□労務管理・人事考課を行う立場か
□他の社員よりも重要な業務や責任を担っているか
□経営に関する重要な会議へ出席しているか
ⅱ)勤務態様の要件
□早退・遅刻に関するペナルティがないか
□労働時間に対して裁量権があるか
□労働時間の規制を受ける業務に従事していないか
ⅲ)賃金等待遇の要件
□管理監督者以外の社員よりも賃金上で優遇されているか (時間外手当を含んだうえでの比較)
□管理監督者に残業時間を含めた場合の時間単価で、それ以外の社員の時間単価との逆転はないか
□優遇されている賃金水準で、自身の時間外労働分の手当額を十分に満たしているか
続いて、スペシャリストコース設置の解決策について解説します。
解決策1:スペシャリストコースはスペシャリストを処遇するコースに絞る
(留意点1)で解説しましたが、スペシャリストコースに「ライン不適格者」を加えてしまうと、あっという間にスペシャリストコースの魅力がなくなり、社内では部長・課長に不向きだった人が滞留するコースという位置づけになります。一方で、この人たちは貢献が少ないうえに高報酬の場合が多く、本人の居心地も悪く、周囲からも恵まれていると思われ、不活性な人材になりがちです。
そういった意味で、ライン不適合の方、役職定年の方は、別のコースを設置した方が良いでしょう。エキスパート(専任職)コースなどという名称を作り、専門的というような表現は使わずに、「経験を活かす」「限定された職務を全うする」「後進育成する」などの表現を盛り込めばよいと思います。
報酬水準は、会社の考え方によりますが、
①マネジメントコース≧スペシャリストコース>エキスパートコース
または、スペシャリストがビジネス価値をつける会社では下記のような処遇もあります。社長よりスペシャリストの方が好待遇の会社も存在します。
②スペシャリストコース>マネジメントコース>エキスパートコース
と設定するとよいでしょう。
報酬格差は、基本給で差をつける方法と、役職手当で差をつける方法がありますが、職能資格制度の場合は、役職手当で差をつける方法を選択することになりますので、課長級(5万円)、部長級(10万円)など役職手当をしっかり支給することが一般的な水準になります。
解決策2:スペシャリストコースの専門性を評価する方法
(留意点2)にも掲げましたが、スペシャリストコースの評価は定期的にすべきです。2年に1度ぐらいで良いかもしれません。
下記のような視点で評価するとよいでしょう。
・専門性を高めるために、継続してインプットしているか。
・専門性はどのようにビジネス=売り上げにつながっているか。
・専門性を使って、どのような経営課題を解決したか。
・専門性を使って、中期経営計画のどのような実現に寄与するのか。
上記を経営会議などの場で、本人から10分~15分程度プレゼンテーションさせるのが良いでしょう。専門性の評価は難しいので、経営視点でどのように業績貢献しているか?経営課題を解決しているか?次の経営課題にどう貢献できるか?をはっきり本人にプレゼンテーションさせることが大切です。専門性のあるなしより、業績への貢献度合いをしっかり評価すべきです。
逆に、上記のようなプレゼンテーションができる人をスペシャリストとして登用する狭き門にした方が良いでしょう。評価するにあたり、経営者層が分かるように表現することも、スペシャリストとしての役目だと思います。従って、スペシャリストの皆さんには、専門用語を使わずに、しっかり自分を表現する力も身に着けてほしいです。
専門職の評価シートは、こちらからダウンロードできます。
解決策3:スペシャリストコースは契約社員にする
ハイスペックなスペシャリストは、外部から採用することがあります。
一方で、
・社内の報酬制度に乗らない(年収2,000万円という水準が用意されてないなど)。
・採用したものの専門性がそれほどなかった。
・逆に優秀だったので、一気に報酬水準を上げたいが、そのような仕組みがない。
・必要としていた専門性が陳腐した。または、戦略的に必要なスキルではなくなった。
などの問題が発生しがちです。
そもそも、ビジネスに必要な人材を採用したいけど、人事制度が問題になって採用を見送るというのは本末転倒であるので、ビジネスで必要な人材を採用できるように人事制度を変えるべきです。契約終了時に、継続や処遇の変更などの条件の見直しが可能な契約社員という処遇も検討すべきです。ハイスペックな人材が、安定した処遇を望むことも考えにくいので、ある程度短期で高報酬にて処遇することも視野にいれて検討してよいと思います。
最後にスペシャリストコース設置のポイントを述べて終わります。
- ライン不適格・役職定年者は、別コースを用意する。
- 魅力的なポジションにするためにも、しっかり評価してスペシャリスト人材を新鮮に保つ。
- スペシャリスト人材には、自分の価値をプレゼンテーションさせる。
- 外部から採用することも考慮して、報酬体系(報酬レンジや昇降)は柔軟に設計する。
- 戦略→経営課題→必要な人材という視点で、スペシャリスト人材を採用する。
など、考慮しながらスペシャリストコースを設計して欲しいと思います。
専門職の評価シートは、こちらからダウンロードできます。
最新セミナー情報
2024/11/26(火) 開催
2024/12/12(木) 開催
2025/03/31(月) 開催
2025/03/31(月) 開催
2025/03/31(月) 開催
2024/11/26(火) 開催
2024/12/12(木) 開催
2025/03/31(月) 開催