コラム
人材育成を手放すことが、人材育成のスタート
コラム記事
2021/03/04
先日、日本能率協会さんのマネジメント講演会で、『人と組織のパフォーマンスアップ 心の成長 (成人の発達理論)」に基づく人材育成の進め方』という講演をしました。その中の「人材育成を手放すことが、人材育成のスタート」の内容をお伝えします。
人材育成の定義をWEBで調べてみると、「人材育成とは、その名のとおり人を育てること」というシンプルな定義が見つかりました。人材育成は、企業にとって、社員にとって良いものだと感じていると思いますが、次のような観点で人材育成を考えてみます。
1つ目の観点:人材育成は、本当は会社都合・上司都合ではないのか?
人材育成の定義通り、「人材育成とは、その名のとおり人を育てること」はとても良いことだと思いますが、企業軸で考えると、下記のように転換されている可能性があります。
「人材育成とは、企業の業績に貢献できる人を育てること」
更に、下記のように無自覚に変換されている可能性もあります。
「人材育成とは、会社や上司にとって都合が良い人を育てること」
「Aさんは、一人前として仕事はできるけど、まだ積極性・自主性が弱いよね」とか、「最近の若手は、言うことは聞くけど、自分で考えない」などは、ほのかに、上司都合や会社都合を感じますよね。
そうなったときに、多様性が大切と言いながら、会社や上司に都合がよい方向で育成を始めそうですよね。部下にとっては、そのような思惑が見え隠れした瞬間に、人材育成されることに抵抗感を持ちそうです。
2つ目の観点:上司・部下との関係で陥りやすい構造
まずは、見たことのない上司・部下との会話です。
上司:○○業務はできているけど、巻き込み弱いよね
部下:巻き込みをしていないのは、まずは自分の専門性を先に磨きたいからです
上司:あっそうか、では専門性の習得を優先して、巻き込みは後回しでいいよ!
部下:はい、専門性の習得を優先します!
次に、ありがちな上司・部下との会話です。
上司:○○業務はできているけど、巻き込み弱いよね
部下:巻き込みをしていないのは、まずは自分の専門性を先に磨きたいからです
上司:でもさ、チームで課題解決するとき、困るのはあなたでしょ!
部下:はい、わかりました(内心では、ああ、また押しつけか…)
なぜ、後者のようなコミュニケーションになるかというと、上司は「自分が正しい」を手放せないからです。自分が正しくないと役割を発揮できないか、自分が正しくない=バカだと思われたら困るなど無自覚なエゴが働くからです。
上司は「正しさ」を主張します。表現を変えると、部下が何と言おうと「部下が間違っていること」を証明しようとします。部下としては、選択肢は1つしかありません。自分が「間違っていること」を認めることです。これは、上司・部下との関係で陥りやすい構造です。会話(面談や1on1)でも、人材育成の局面でも起こりがちです。
この構造下での人材育成は、「部下自身が自分が間違っていると受け入れること」からスタートになります。それでは、部下はモチベーション高く成長しようとは思いませんよね。
上司側の変容が、部下育成・組織活性のカギ
冒頭で、「人材育成を手放すことが、人材育成のスタート」とお伝えしましたが、上司が「自分の正しい」を手放すことが、「人材育成」のスタートかもしれません。つまり、人材育成をしようとする動機が、「もしかしたら自分のエゴからかもしれない」と上司が認識できたときに、初めて「真の人材育成」がスタートするのではないでしょうか。
上司が、
「人材育成を阻害しているのは、もしかしたら自分?」
「組織の雰囲気を悪くしているのは、もしかしたら自分?」
と理解できたときに、部下育成や組織活性は自分自身の変容がカギになると腑に落ちます。
そこから、上司にとっては、自分が揺らぐという厳しい旅がスタートします。自分の価値観が揺らいだり、自分が正しいと思っていることを手放すことになったりします。
マネジメントの方向性が、相手をマネジメントする視点と、自分をマネジメントする視点の2つの手法が身につくので、効果は大きなものになります。
この辺りを、役員やマネジャークラスの皆さんが理解できたらいいですね。
ちなみに、私もまだ揺らぎと葛藤しながらマネジメントしています。まだ旅が終わっていません。
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